名誉会長挨拶

 人々は「新型コロナウイルス」の遥か以前から、不安におののいてきました。それは「生態系の撹乱」「民主主義と市場経済の社会システムの機能不全」「モラルの退廃」の3つが重なり、近代文明が危機に瀕しているからです。

 近代文明は、企業においては「効率と利潤の極大化」を、科学は「技術の最適化」を、生活においては「安逸便利快適さ」を、それぞれバラバラに「合理主義思考」に基づいて追求してきました。それらが合わさった「合成の誤謬」が、この3つに拠る文明の危機であります。しかしどうすれば文明の崩壊を免れられるのか? この問いにどの学問も、応えられません。

 社会現象は視点により「経済現象」や「法律現象」あるいは「社会学的現象」「商学現象」などと捉えられますが、現実には「経済現象」「法律現象」その他「純粋な現象」はあり得ません。したがって社会諸科学のいずれかの一つで、社会現象をトータルに捉えることはできません。社会科学も厳密な科学であろうとして「合理主義」に基づき、対象も学問をも分割し「科学の専門特化・純粋な学問」を進めてきたからです。

 そこでヨーロッパでは、とりわけ1960年代に入るころには「社会諸科学の総合化」が叫ばれるようになりました。しかし日本では殆どの大学において、なお社会科学の専門特化に主眼が置かれています。そのような状況下で「社会科学の総合化」を目指す最初の学部として、「早稲田大学社会科学部」が創設されました。その後、日本でもこの総合化を目指す学部が創設されましたが、いずれも専門特化した学問の域を脱していません。

 これらの事情に鑑みて、一般社団法人「日本経済協会」の内容を変えて、「社会科学総合研究機構」として、日本経済協会を引き継ぐことにしました。一般社団法人「日本経済協会」は、1946年に創設された戦後の社団法人第1号の「日本経済復興協会」を引き継いだ社団法人です。双方合わせて74年間にわたり、日本経済の復興と発展に貢献してきました。

 しかし今や近代文明全体が危機に瀕しており、経済ばかりでなく近代文明全体を総合的に捉えなおし、この点から社会に進言することが焦眉の急となりました。弊一般社団法人「社会科学総合研究機構」は、こうした視点から、社会にできる限り貢献することを目指します。したがって多くの様々な人々のご参加を、お願いする次第です。

一般社団法人 社会科学総合研究機構
名誉会長
田村正勝
(早稲田大学名誉教授 経済学博士)